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バスから眺めたスウェーデン〜ストックホルムからのたより〜From NAKAHATA
ストックホルム市街を軽快に走る路線バスの少々乱暴な運転にもようやく慣れてきた頃です。
バス停に停車するやいなや、自分の体が不意に右側に沈み込むような違和感を覚えました。
不思議に思っていると、運転席横の扉(車道は右側なので、乗車口は右側です)から老婦人が少々頼りない足取りで乗車してきて、運転手にパスを見せています。
同時に中央の扉からは、若い男性が大きなベビーカーを押しながら専用スペースに滑り込んできて、傍らの簡易座席に腰掛けました。

「なるほど!バリアフリー」と思ったのも束の間、老婦人がちゃんと着席したかどうかなどお構いなく、バスはまた動き出しました。
スウェーデンバスの風景
ストックホルムのバスはそのほとんどがいわゆる低床車なのですが、恐らくすべての主要路線バスは、年配者やベビーカー、車椅子がスムースに乗り込めるよう、なんと車体をバス停側に少し傾けることができる構造になっているのです。
少し調べてみると、最近は日本の首都圏でもこのような“傾くバス”が走っているようですが、ストックホルムの方がその台数からして徹底されているのではないでしょうか。

スウェーデンの“バリアフリー”はとても身近です。
Shoe Shopデパートやスーパー、地下鉄の駅、その他博物館などの公共施設では、至る所でスロープや簡易リフト、エレベーターを見ることができます。
現在私が通っているカロリンスカ研究所でも、車椅子で行けない場所は恐らくないでしょう。
「段差がない」ということがどれほど大切なことか。
おしゃれに着飾った年配夫婦がバスに乗ってショッピングに出かけるのを本当に良く見かけますし、街にはベビーカーが溢れています。“バリアフリー”という言葉の意味を、スウェーデンでは正しく理解することができます。

10年ほど前から“バリアフリー”は米国の方が上だと、私の直属の上司であるカロリンスカ研究所のPer Uhlen助教授は言います。
スウェーデンのすべてのレストランでは、車椅子利用者の為にエントランスやトイレを工夫しなければならないとの法律がありますが、これには例外があり、政府はその例外を認めているからだというのが理由だそうです。
ストックホルムは18世紀以降、直接戦火に巻き込まれなかったおかげで、古い建物が現在も立ち並ぶ美しい街なのですが、これら古い建物を利用しているレストランやアパートなどでは、車いすのための改修工事を免除されているのだそうです。
同じく古い街並が残るパリに至っては、車椅子環境は「terrible!」だそうです。
一方、米国では差別禁止法(anti-discrimination law)が厳格に定められており、車椅子が入れないようなレストランは、訴えられて高い賠償金を払わされるとのことで、“バリアフリー”は目下スウェーデンを抜いて世界一だそうです。

それでも、スウェーデンの車いす利用者に対するバリアフリー対策は優れているのではないでしょうか。
車いすはすべて無料で手に入れることができますし、自動車を購入する際には、7年ごとですが、高額の補助を受けることができます。
車のオートマチック仕様や窓ガラスのヒーター、エアーコンディショナーなどもすべて無料だそうです。
また、ハード面での支援だけでなく、人による援助についても同様です。
映画に行きたいときなどには、手伝ってくれる人を雇うこともできますし、もう少し手厚い介助が必要なハンディキャップを持つ人の場合、部屋の掃除などもすべて国がカバーしてくれるのだそうです。
もちろん、このような手厚い援助は、他国に比べ高いといわれるスウェーデンの税金で賄われている訳ですが、社会に還元されていることが目に見えて実感しやすいという点が、税率の差以上に日本とは異なるように思います。

Bossそうそう、言い忘れておりました。
Uhlen助教授も実はパンテーラの愛用者です。
なんと、スウェーデン・パンテーラ社の創業者Jalle Yungnellさんとは、車椅子バスケットボールのチームメートだったそうで、1996年のアトランタオリンピックでは、共に戦った仲間だそうです。
ストックホルムに移り住んだ1991年以来、Jalleさんの作った車椅子にずっと乗っているとのことですが、一番軽くて携帯性に優れているというのが、パンテーラを選ぶ最大の理由だと言っておられました。

スウェーデンバスの風景ところで冒頭で紹介したバスの光景の中で、ベビーカーを押してきた男性がチケットを運転手に見せていなかったことに気付かれた方がいるかもしれません。
そうです。スウェーデンではベビーカーを押していれば、チケットは必要ないのです。
この制度は、バスに限らず地下鉄や近距離列車などにも適用されていて、これも目に見えて実感できる“バリアフリー”のひとつではないでしょうか。

しかしそれにしても、バスのあの乗り心地の悪さは、どうしても“バリアフリー”とは不釣り合いに思えてなりません。
バリアフリー先進国、スウェーデンの不思議なところです。

NAKAHATANAKAHATA プロフィール

関西で働く医師。
医学研究のため、家族4人でスウェーデンに来ています。
尊敬するクリエーターの一人、パンテーラ・ジャパンの光野有次さんからの依頼で、ストックホルムでの生活ぶりについてレポートすることになりました。
私たちの目線で感じた北欧の大国スウェーデンをご紹介したいと思います。



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